生もと造りの日本酒
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第3話 「井戸爺さん」
コーボ「こんにちは、井戸爺さん。僕ね、大七の蔵の歴史、地理それから米作りの勉強してきたんだよ。だから今度又、水のこと教えてほしいんだ。」
井戸爺さん「おう、よしよし。感心じゃ。二本松の地形は、前に言ったように西に安達太良山、東に阿武隈山地があり、真ん中を阿武隈川が南北に流れる。西の新しい地層は軟水系、東の古い地層は硬水系が多い。中央の市内は地層が複雑に入り組んでおる。で背後には花崗岩質の観音丘陵があってな、ここ大七は中硬水じゃ。大七の敷地内でも少しずつ個性が異なる水が出ておる」
コーボ「昔から井戸爺さんの中井戸の水が一番大七の酒に合っているんだよね」
井戸爺さん「そうともよ。地中には固い岩盤の層があってな、そのどこから水を汲み上げているかが大事なんじゃ。岩盤の尾根から湧き出ている水なら最高じゃ。反対に谷に貯っている水を汲み上げるのは今一つじゃな。そして大七の仕込井戸、つまりわしのことじゃが、わしは正しく地底の尾根の頂点に穿たれておるのじゃよ。ご先祖様がよくぞこの場所を見つけてくださったものじゃ」
コーボ「すごい!ご先祖様、ありがとうございます。ところで井戸爺さんはうんと深いの?」
井戸爺さん「わしは浅井戸じゃよ。元来、浅井戸は水質がよいんじゃ。オホン。浅いところから良水が出なくなったら、深く掘るしかないが、水に溶け込む成分は多くなるじゃろうなあ」
コーボ「ヘエエ、じゃあ、水の違いがどんな風に酒の違いに出るのかな?」
井戸爺さん「そうさなあ。昔から硬水の “灘 ”は男酒、軟水の “伏見”は女酒、といわれとる。出来たては少々粗いが、熟成すると秋上がりする男酒と、最初から整ってはいるが、熟成すると秋落ちしやすい軟水の酒といった違いじゃの。硬水のほうがよく発酵するのじゃ。昔からきめ細かさと強さを併せもった中硬水あたりがよいとされているが、最近は軟水仕込みが流行しとるな。出来てすぐにある春の鑑評会では結果が出やすいからじゃろう。」
コーボ「大七は、あくまでも熟成させてからが勝負だと考えているんだね。」
井戸爺さん「おうとも、早く結果を出そうとは思わない。きめこまやかであり、しかも長期の熟成に耐えてますます品質が向上するのじゃ。だから水はもちろん大事だが、酒の良し悪しを決めるのは造りじゃな。水の性質を考え、それを活かすような造りが肝心。」
コーボ「そうなんだね。でも水はきれいなほど良いの?」
井戸爺さん「もちろんきれいなことは必要だが、蒸留水のようではダメだ。生もと造りの微生物は生きられんからな。」
コーボ「適度な成分が必要なんだね。掃除も適度でいいんじゃない」
井戸爺さん「何を言っとる!毎年の井戸掃除といったメンテナンスが重要じゃ。地下水は地域の生態系の一部。水は生態系の中で循環しており、大きな輪廻をなしておる。山々の樹木の根が水を涵養しているんじゃ。
コーボ「じゃあ、新蔵の建設中は苦労したでしょ?」
井戸爺さん「ああ、そりゃあ気い使った。地下の水脈を壊さないよう保護することを第一にな、杭は一本も使わんことにしてもろうた。慎重に3m余り地面を掘って、厚いコンクリートのベタ基礎にしたのじゃ。水脈は分厚い粘土層の下に守られとるからな、長い杭さえ使わなければ大丈夫。その粘土層といったら、見事なオレンジ色でな、この粘土でぐい呑み作りをしたいものじゃよ。この豊富な地下水を蔵の中を循環させれば穏やかな空調にもなって、酒の貯蔵にも最高じゃ。頑張るぞ!」

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