シリーズ:お酒が語る、酒物語

「妙花闌曲グランド・キュヴェ」

コーボ 酒物語の最後を飾るのは、大七が誇る最高峰、妙花闌曲グランド・キュヴェさんだ。
グランド・キュヴェ こんにちは、コーボ君。ご機嫌よう
コーボ 始めにグランド・キュヴェさんが誕生した時のいきさつを教えていただけますか?
グランド・キュヴェ 勿論だ。私の登場前、大七の最高峰は妙花闌曲だった。知っての通り、妙花闌曲は従来にないスケール豊かな純米大吟醸として大きな成功を収めた。この酒が奥深いのは味わいだけではない。時間的なパースペクティブの奥深さも前代未聞だった
コーボ ふうむ…。それはどういうことなんですか?
グランド・キュヴェ そうだね、妙花闌曲が年月によってどう成長するか、説明が必要だ。新酒のうちはフレッシュな香りが最も溌刺と華やかだが、味わいが硬く、大きな潜在力がまだまだ開花していない、いわば未成年の状態だ。それが3,4年を経て、見事な力強い大輪の花を咲かせた頃に市場に出る。つまり大人として完成した訳だ。だが、それで終わりではないのだよ。さらに数年で、香りの華やかさは上品な落ち着きを増し、一方では熟成した複雑性とまろみを獲得してくる。いわば壮年期だな。この進化は何年もかけてゆっくり進行し、遂には実に穏やかな、何の障(さわ)りもない透明感のある老境が訪れる。全ての複雑性、熱い火を内に秘めた、調和の極みとしての穏やかさだ
コーボ うわー、まるで人間の一生のようですね!
グランド・キュヴェ そう、それぞれの段階に固有の素晴らしい美点がある。いいかね、コーボ君。大七は、それら同時には存在し得ない美点を、一つのお酒の中に集められないか、と考えたんだ。私はあり得ない酒なのだ。夢を追い求める造り手の飽くなき探求だけが私を可能にした
コーボ すごいなあ!妙花闌曲で到達した頂点だけでも十分なのに、その先を目指すなんて
グランド・キュヴェ 大七の七にちなむ2007年7月7日のリリースを目標に、一年前から開発が始まった。完成イメージに合わせて、貴重な貯蔵酒から約20年にわたる数十種類の原酒を選ぶ。次には選ばれた原酒の配合バランスを、慎重に何パターンも試験配合しては、静かな環境でじっくりとテイスティングする。見事にフォーカスが合えば、あたかも最初からそのように生まれた一つの酒であるかのようになる。まさにマジカルな瞬間だよ
コーボ 新登場したグランド・キュヴェさんは、早速2008年の洞爺湖サミットで首脳夫人晩餐会の乾杯酒になりました。無償協賛でなく、購入された唯一のお酒だったそうです
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グランド・キュヴェ この上ない栄誉で、嬉しく思っているよ
コーボ グランド・キュヴェさんは3年毎に、たった千本前後しか造られませんね
グランド・キュヴェ 希少な貯蔵酒を活かすにはそれが限界なのだ
コーボ ラベルには、能の老女面が小さく描かれています
グランド・キュヴェ それが私のシンボルマークだ。世阿弥の能で、老女ものは過去・現在・仮想が重層的に一体となった最高難度の演目だが、それが成功した時の高揚感は、誠に素晴らしい
コーボ まさにグランド・キュヴェさんが目指す境地ですね!
グランド・キュヴェ わかってもらえたかな?時が私たちにもたらすのは叡智(えいち)だ。それは、限りが無いのだよ
コーボ 今日は本当にありがとうございました。ご機嫌よう!!