シリーズ:お酒が語る、酒物語

「皆 伝」

コーボ これから大先輩の皆伝さんを訪ねるんだ。皆伝さん、こんにちは!
皆 伝 やあ、コーボ君。元気だったかな?
コーボ ハイ。皆伝さんは大ロングセラーですよね。誕生したのはいつでしたか?
皆 伝 私の誕生は、忘れもしない平成2年だった。いいかい?高級商品の誕生の仕方には二通りある。ひとつは中級品から出発し、質を高めて高級品に至るもの。もうひとつは、希少な最高級品の開発が先行し、その技術を元に安定的に生産拡大を図る場合だ。私の場合は後者で、全国初の生もと純米大吟醸雫原酒だった宝暦さんの発売に送れること1年、同じく初の生もと純米吟醸として市場に登場したんだ
コーボ ふうん。それは何か理由があったんですか?
皆 伝 うむ。当時はそもそも正統的な生もと造りの吟醸は市場に存在してなかった。それが可能であることを初めて証明したのが宝暦さんだったんだ。 大七は、ずっと生産量の大きい私に宝暦さんの匠の技を移し換えることに細心の配慮をした。それで大きさの割に徹底した手造りの私が誕生したという訳だ
コーボ お名前の皆伝は、もちろん免許皆伝の意味ですよね!
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皆 伝 そうだね。大七の生もと造りの全てを私の中に表現した、という意味でもある
コーボ 皆伝さんのラベルにある、格調高い金色のデザインは何ですか?
皆 伝 よく聞いてくれたね。これは由緒あるものなんだ。正倉院御物にある宝相華(ほっそうげ)紋様というんだよ。大七が、生もと造りで日本の正統的な文化を継承していこうという意気込みの現れだね
コーボ 発売以来、皆伝さんは大ヒットを続けましたね
皆 伝 ウン。今でこそ、箕輪門さんに大七の吟醸酒売上ナンバーワンの座を譲ったが、私は五千円のギフトとして有数の売上を続けてきたよ。冷酒で美味しいだけでなく、お燗ができるのが私の強みだ。何しろ贈答の相手方にはお燗がお好きな方も多いからね
コーボ 皆伝さんの原料米は五百万石です。お酒になったときの特徴を教えてください
皆 伝 大七の五百万石は会津産と富山県産。北国のお米らしく少し硬質でクリアな味わいになる。蜜のような甘みの後に爽やかな酸が心地よい余韻を作るんだ。熟成するとしっとりまろやかに成長する
コーボ なるほど!皆伝さんの穏やかな美味しさが一番好き、というファンが多い訳がわかりました。フランスでも人気なんですよね?
皆 伝 海外市場には私の兄弟分の「真桜」が出ている。パリ・ソムリエ協会のガラ・ディナーに、ソムリエ世界チャンピオンのオリヴィエ・プシエ氏の推薦で、日本酒として初めて登場したのも彼だ。私達はフランス料理のバターやクリーム風味には抜群に合う。魚介料理、ソテーにはもってこいだ。もちろん日本料理の懐石やお鮨に合わせ、12度位に冷やして飲むのもとても美味だし、しゃぶしゃぶや鍋料理の時にぬる燗で、というのも私の得意分野だね
コーボ ワア。和洋を問わず冷酒でもお燗でも。まさに万能選手です!もしも無人島に一本だけお酒を持って行けるとしたら、絶対にあなたですね!
皆 伝 ありがとう。会えて楽しかったよ。コーボ君
コーボ 皆伝さんもお元気で!