シリーズ:郷土の宝物語

第3回「安達ヶ原、鬼婆伝説」

コーボ 二本松には約1300年前から伝わる怖い伝説がある。生もと君、ここが鬼婆伝説で有名な、奥州安達原の観世寺だ。大きな岩がごろごろして、いかにも昔、鬼婆が棲んでいたような雰囲気がするね
生もと うん。伝説はこんな話だよ。昔々、ある旅の僧が安達ヶ原あたりで日が暮れたので、一軒の岩屋に一夜の宿を求めたんだ。現れた老婆は、夕食の支度のために薪を取りに行くが、奥の部屋は絶対見てはいけないと言い残して出ていった。でも、その僧はどうしても見たくなって、覗いてしまったんだ。すると部屋の中には人の白骨が山のように…
コーボ ひゃー、ぶるぶるぶる
生もと さてはこれが噂に聞く鬼婆の棲み家だったのかと、僧侶は一目散に逃げ出した。しばらくして岩屋に戻った老婆は、すぐ正体を見られたことを悟り、恐ろしい鬼婆の姿になって僧を追いかける。それはもう、老婆ではあり得ない猛烈な速さで追い付いてきた
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コーボ うわー、もう絶体絶命だ!
生もと 僧侶は観音像を取り出して必死にお経を唱えた。するとその像が空に舞い上がって鬼婆に金の矢を放った。鬼婆は絶命して、それから仏の導きで成仏したそうだ
コーボ うーん。間一髪だったね
生もと 僧侶は鬼婆を阿武隈川のほとりに葬(ほうむ)った。今でも川岸の老杉の根元に『黒塚』の碑が立っている場所だよ
コーボ そうか。『黒塚』は平兼盛の和歌に『陸奥の安達が原の黒塚に鬼籠もれりと言ふはまことか』と詠まれている
生もと コーボ君、よく調べたね。どうして鬼婆になってしまったのかについては、とても悲しい物語があるんだ
コーボ それも是非聞きたいな
生もと その昔、岩手という女が都の貴族の屋敷で、乳母として奉公していた。でも、岩手が可愛がる姫は、生まれつき口がきけない病だった。何とか救いたい岩手は、妊婦の胎内にいる胎児の生き肝を飲ませれば直るという易者の言葉を信じて、それを手に入れるため、生まれたばかりの自分の娘を置いて、遠く陸奥へ旅立っていったそうだ
コーボ そんなもの、絶対に無理だよねえ
生もと ところが長い年月が過ぎたある日の夕暮れ、道に迷った若い夫婦が一夜の宿を求めて来た。妻のほうは身重で、ちょうど産気づいたため、夫は薬を買いに出ていった。好機到来とばかりに、岩手は出刃包丁を持って若い女に襲いかかり、胎児の生き肝を手に入れたんだ
コーボ うーっ。到頭やっちゃった
生もと その時だ。若い女が身に付けていたお守りを見ると、何と岩手が殺したのは、都に残してきた実の娘だったんだ!あまりの驚きで岩手は気が狂い、いつしか旅人を襲う鬼婆になってしまった
コーボ 何とも恐ろしくて、哀れを誘う伝説だねえ。能の演目では『黒塚』、歌舞伎と文楽では『奥州安達原』として知られている。それに、浮世絵にも怖い場面が描かれているよ
生もと 怪奇なストーリーが色々な作者の想像力を刺激するんだろう。観世寺に残る岩屋も、とてもおどろおどろしい
コーボ マスコットのバッピーちゃんというキャラクターのほうは可愛らしいけどね
生もと 二本松には古代から近代まで、色んな伝承や物語が生まれている
コーボ そうだね。次回もいっぱい二人で探訪しよう!