シリーズ:コーボ君、酒蔵探訪

第8話 生もと その二

コーボ 「よし!乳酸菌くん、今度は生もとの仕組みを一緒にたどっていこう」
大七乳酸菌 「OK!ちょうど『もと摺(す)り』の作業が終わった所だし、これからがおもしろい戦国絵巻が始まるぞ。行こう、行こう」
コーボ 「ほら、仕込の桶をのぞいてごらんよ。まだ低温で、栄養の少ない状態だよね」
大七乳酸菌 「でもコーボくん、よく見てごらん。幾つかの微生物が徐々に活動を開始している…」
コーボ 「ア、ホントだ。硝酸還元菌(しょうさんかんげんきん)が亜硝酸を作りだしてるね」
大七乳酸菌 「そう、この亜硝酸が野生酵母や、産膜酵母など悪い奴らの生育を抑えてくれるからね」
コーボ 「うん。僕たち清酒酵母も実は亜硝酸は苦手でね。弱い酵母は淘汰されてしまうんだよ。かわいそうだけど、真に強い清酒酵母が育つために仕方ないわけさ」
大七乳酸菌 「そうだな。あっ、蔵人が『暖気(だき)入れ』をはじめたぞ」
コーボ 「一種の湯タンポだ。温度が上がったら、麹のはたらきで全体に栄養が回り始めたよ」
大七乳酸菌 「コーボくん、見て、見て。僕の仲間の乳酸菌が急激に成長してきてる。ね、最初は球菌、そして桿菌(かんきん)だ。僕も中に入ろおっと」
コーボ 「あー。乳酸菌君、大丈夫かい?」
大七乳酸菌 「もちろん!僕らの作り出す乳酸と、亜硝酸との相乗効果によって野生酵母、産膜酵母、そして硝酸還元菌も全滅だ」
コーボ 「見事にやっつけてしまったね。僕ら乳酸に耐性のある酵母は、苦手な硝酸還元菌がいなくなったから、そろそろ増殖を開始してきたよ」
大七乳酸菌 「ウン、本当だ。君も入っておいでよ。でも、乳酸菌の方はさ、自分の作った乳酸で体が弱っていたから、君たち酵母が作りだしたアルコールで全滅してしまうんだよ。グスン…」
…… コーボ、タンクに入る ……
コーボ 「お互いに良い生もとの完成を目指して犠牲を惜しまず頑張るんだ。厳しい生存競争の過程で弱い酵母は死んでしまうけど、その替わり強い酵母だけが逞しく育っていく」
大七乳酸菌 「判った。あとは頼んだよ!コーボくん、ごらんよ。低温に強く、栄養の乏しい状況に負けなかった酵母たちの最強軍団が、純度100%で増えていくよ」
コーボ 「そうさ。やがて暖気入れに頼らなくても、発酵熱によって自力で温度上昇させられるようになるんだ」
大七乳酸菌 「うわーっ、ポコポコ、フワフワ、表面に泡がでてきたじゃないか」
コーボ 「その中に沢山の酵母たちが育つんだよ」
大七乳酸菌 「それじゃあ、いよいよ最後の試練がやってくるわけだ」
コーボ 「ああ、そうだね。アルコールと温度の上昇との闘いだ。これに負けなかった酵母たちだけが、醪でお酒の発酵に使われるってわけだよ」
大七乳酸菌 「そうかあ、頑張れ、頑張れ!君たちは酵母の最強軍団なんだ。杜氏や蔵人が24時間、交代で見回って応援しているんだぞ。ふう。僕ももう限界だ。退散するよ」
…… 乳酸菌、タンクの外へ ……
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コーボ 「うん!外でまた会おうね。さあみんな、ガンバレ、ガンバレ!」
二人一緒 「それ、ガーンバレ。フレーッ、フレーッ、酵母!その調子。いいぞ、いいぞ!」
コーボ 「あっ、もうすぐゴールだ。」
大七乳酸菌 「ワーイッ。完成だ。」
コーボ 「立派な生もとの完成だ。良くやった、みんな。嬉しいよ」
大七乳酸菌 「おめでとう!あとは低温で冷やして『枯らし』に入る。酵母たちは次の醪で使われるまで、ゆっくり休憩してくれ給え」
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