シリーズ:お酒が語る、酒物語

「宝暦大七」

コーボ 今回お話を聞くのは宝暦大七さん。僕にとっちゃ生きた伝説みたいな人だもの。とても緊張するな。こんにちは
宝暦大七 やあ、こんにちは
コーボ 宝暦さんは今世紀の前までずっと最高峰でしたね。あなたを仕込む時、蔵人さん達がどんなに真剣で緊張していたか、僕知ってます
宝暦大七 そうだね。私は誕生する遥か前から皆に語られ続けていた。皆の夢だったのだ
コーボ はい。先々代の大杜氏と言われた伊藤勝次さんの頃、生もとで純米の大吟醸で、しかも雫酒の原酒なら、それ以上の酒は無いと言ってました
宝暦大七 形だけ満たすのは容易い。問題は内実なのだよ。それがどんな酒でなければならないか、年月をかけて探求した
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コーボ 世の中のどこにも、そんなお酒は無かったんですね
宝暦大七 そうだ。5年の歳月と山のような試作を経て、平成元年の春、到頭私は生まれた。伊藤杜氏晩年の到達点だ
コーボ 生もとならではの独自のスタイルを完成させたんですね!
宝暦大七 大吟醸らしい洗練された華やかさと、味わいの充実感や力強さが両立していなければならない。ある先生が仰っていたように、それでこそ『酒の王』と言えるだろう
コーボ 宝暦さんの名前は、大七の創業時の年号に由来します
宝暦大七 とても名誉に思っているよ。その名に恥じないお酒であり続けることが私の使命だ
コーボ 毎年、気候もお米も変わるし、最高のレベルを維持し続けるのは大変でしょうね
宝暦大七 そのための努力は並大抵ではない。私は小さめのタンク数本、非常に時間をかけて極低温で醸(かも)されるが、雫を搾った段階で合格とされるのは、その一部に過ぎない。毎年瓶詰め数量が大きく変動するのは、最高レベルを守り抜くためなのだ。私はわずか158本しか出来なかったことさえある
コーボ 本当に?すごく貴重なんですね。宝暦さんの蔦(つた)の葉のデザインは、大七の酒蔵を飾るレリーフにも、妙花闌曲(みょうからんぎょく)のピューター・エンブレムにもなっています。僕達がどれほど誇らしく思っているか!
宝暦 ありがとう。技は金田一杜氏、そして現在の佐藤杜氏に受け継がれ、超扁平精米技術によって一段と磨きがかかった。佐藤杜氏によって、私は伝統技法による純米醸造で、史上初めて全国新酒鑑評会の金賞受賞を果たした
コーボ あれは嬉しかったな!そして二度目の金賞を最後に、鑑評会から離脱したんですね?
宝暦 私達がもっと遠くまで到達するためだよ。夢に終わりはないのだ
コーボ そうですよね!あのー、最後にお願いがあるんです。ひと口だけ飲ませてください
宝暦大七 勿論いいとも。コーボ君のためにリーデル社の大吟醸グラスを用意しよう
コーボ 感激だな。このグラスは何十もの候補の中から、最後は宝暦さんの試飲によって、最終的に選ばれたのですよね
…… グラスを回して一口飲む ……
コーボ ムムム。豊かな香りと凝縮した味わい。力強くてピュアだ。まったりしているのにキラキラした粒立ちがある…
宝暦大七 気に入ったようだね。私は料理なら、力強いメインディッシュと合わせてほしい。ロックフォールなどのブルーチーズも相性がいいようだ
コーボ ふー。あなたは誰にも似ていません。本当に、唯一無二の存在です。
宝暦大七 嬉しい言葉だ。私もそうでありたいと願っているよ