シリーズ:日本酒飲み方指南

第2回「飲む器」

コーボ 生もと君、お酒を飲む器って形も素材も色々あるよね
生もと いいところに気が付いたね。伝統的な器は、今も神事に使われてるような塗り物の平盃(ひらはい)だった。江戸時代になって、居酒屋で筒型の猪口(ちょこ)が流行した。猪口より大振りのものをぐい呑と名付けたのは、昭和の大陶芸家の北大路魯山人(ろさんじん)だという説もあるよ
コーボ なるほど。今でも三三九度は平盃だね。優雅な雰囲気!
生もと ウン。日本では相手と盃をやりとりする儀礼があったから、昔は盃洗(はいせん)とか盃台(はいだい)とか、風流な道具も使っていた
コーボ ふむふむ。儀礼に合わせて器も発展したんだね。今はどんな器で飲めば美味しいか、機能性が注目されてるね
生もと そうなんだ。実際、器の大きさや形によって、香りの立ち方、風味の感じ方は多少変わってくるし、素材によっても微妙な変化がある
コーボ 例えば吟醸や大吟醸にお勧めなのはどんな器?
生もと 豊かな香りに心地よくひたるには、容量大きめのワイングラスに1/3ほど注げば、空間に立ち上った様々な香りを堪能できる。小さなお猪口やショットグラスでは気付かなかった複雑さも味わえるだろう。リーデル社には大吟醸専用のグラスがあるよ
コーボ そりゃ美味しそうだ! リーデル大吟醸グラスの開発には、大七も協力したんだよね
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生もと 大吟醸グラスはとても良く出来てるが、大七の、特に力強い『宝暦大七』や『妙花闌曲』の場合は、さらに大きなボウルのモンラッシェグラスなんかが最高だね。豊かで複雑な香りと旨みが花開いて、とてもゴージャスになる
コーボ ワォ!それじゃあ、純米酒や本醸造もワイングラス系が一番いいの?
生もと ウム。機能性を追求するなら、ワイングラスは良い選択枝だ。特に薄手のものは口当たりが心地いいよ。世界的なソムリエの田崎真也さんは、香りの高いタイプ、コクのあるタイプ、なめらかなタイプ、熟成タイプの4種類の日本酒グラスをデザインされてる。大七のテイスティングルームでも、そのうち2つを活用してるよ。それからリーデル社は最近、純米酒に特化した素敵な純米グラスも開発した。でも日本酒の楽しみは、機能性だけでなく総合的なものだから、焼き物の器も良いね
コーボ そう、そう!生もと君が焼き物を大好きなことはよく知ってるよ
生もと お燗を楽しむ場合、焼き物の器が機能的にいい面もある。多孔質の陶器は手に熱さを伝えにくいし、微細な酸素がお酒を柔らかくしてくれる
コーボ ふーん。焼き物の器では、形はどんなものがいい?
生もと 口径の大きな平盃は香りも一緒に楽しめる。筒型の猪口やぐい呑は、手にしっくり馴染んでお燗の旨みを楽しむイメージかな。でも機能的な良し悪しよりも、自分の好みを大切にしていいんだよ
コーボ そうか。日本ではどんな酒器が好まれてきたの?
生もと 昔から『備前の徳利、唐津のぐい呑』という言葉がある。表情豊かな焼締めの備前の徳利と、一見素朴ながら味わい深い斑唐津(まだらからつ)や朝鮮唐津などの盃の取り合わせが珍重されたんだね。焼き物王国の日本に生まれたことを喜びたいな
コーボ そうだね。歴史や文化も、お酒を楽しむ大切な要素だもの。生もと君、色々ありがとう
生もと 飲む器に心を配ると、お酒がもっともっと楽しくなるよ